不動寿し

鮨 青木の「おきまり」

銀座六丁目、交詢ビル裏手の路地の二階にある店。扉を開けると、厨房の入口にかけられた暖簾がまず目に飛びこんでくる。気を取り直して左手の暖簾をくぐると、横一列に並んだ14席のカウンター、4席のテーブル席、障子で仕切られた個室からなるフロアが現れる。鮮やかな赤いビロードが張られた椅子の座り心地は悪くない。

この日の「おきまり」は、赤身、メジ鮪、鯛の昆布〆、小鰭、青柳、才巻海老、蛸の桜煮、穴子。

かために仕上げた酢飯は、鮪のような肉厚の種とも、鯛や蛸のような噛み応えのある種とも、馴染んでいるとは思えなかった。小鰭の〆加減は酢より塩が立って、バランスが悪い印象。海老はあえて小ぶりなものを使っているのだろう、固すぎない火加減で、素材そのものの甘みが感じられた。

最も印象に残ったのは、握りではなく、お通しとして出てきた、甘辛く煮付けた赤貝の肝。気のきいた酒肴をつまみながら飲む、夜の部の楽しみが想像できるが、はたして昼を食べに来た客の何パーセントが、夜に再訪しようという気になるのだろうか。(3150円)

公式HPはこちら

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二葉鮨の「おきまり」

銀座四丁目、晴海通りと昭和通りの交差点から一歩入った路地裏にある、古びた木造二階建ての店である。戦後すぐにできた建物らしく、正面左には屋台を模した出窓が埋めこまれている。カウンターの上部に屋台のスタイルを取り入れた店は多いが、外壁の装飾に使う例はめずらしい。この「屋台」で鮨が商われたことはないようだ。

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「握」と白く染め抜かれた紺の暖簾をくぐり、緩い弧を描くカウンターの隅に座る。幅広の、黒い塗りのつけ台が、客に向かって傾いている。つけ場の後ろの鴨居には、かつて寿司を「積み込んだ」とおぼしき、染付けの大皿が飾られている。9席のカウンターのほかに、4席のテーブル席が3つ。店内の造作は、どこを見回しても、名店の歴史を感じる重みがある。

卸し金を取り出し、山葵を擦りはじめた主を見て、こちらもすっと背筋が伸びる。昼の「おきまり」とはいえ、居住いを正して待ち受ける格好である。かつて名だたる職人たちが立ったつけ場は、客の視線を主の一身に集める舞台のようだ。

この日の「一人前」は、鮃、中トロ、鯖、小柱、海老、穴子、鉄火巻、海苔巻、玉子焼。

昼時だからか、大ぶりな握りは、酢と塩のよくきいた、媚びない味である。種の質は、当然、最上とはいえないが、腹にずしんとくる存在感がある。海老は生、穴子は煮ておいたのを軽く炙って出す。鉄火巻は、細長い赤身を鉛筆のような形に切って、もう一度まとめるという手間をかけていた。こうすると、噛んだときに、海苔、酢飯、種の三つが、同時にほぐれていく。甘みを排した人肌の酢飯に、甘く煮たかんぴょうがよく合う。(2620円)

公式HPはなし。アドレス、営業時間についてはこちらを参照。

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鮨 水谷

銀座の外れ、スナックがひしめく雑居ビルの地下で、握り手とホールを担当する女将、下ごしらえと洗い場を担当する若い弟子二人でこじんまりと営業する店である。カウンター十席と荷物置場として使われているテーブル席がある。まずは刺身を肴に呑むか、握りからはじめるか。いずれにせよ、主に「おまかせ」の客が多いようだ。

水谷の握りは流体力学に基いて設計されたかのようにすらりとしている。おひつからざっくり掴んだシャリをそのままネタの上にのせ、余分な分を思い切りよく捨てるという、独特の手順である。かたすぎず、やわらかすぎず、口の中であっさりほどけてしまうのではなく、噛んだところから飯粒が散り散りに逃げていく。相手しだいでどんな役もこなす変幻自在のシャリである。

この日のおまかせは、熟成が浅く、噛み応えのある鮃からはじまった。丸づけにするには大きすぎるのか、片身づけにされた小鰭は、生の食感を残すほどよい塩加減、キレのある酢の後味をおぼろの甘みがまるくおさめる。歯切れのいいやや小ぶりの墨烏賊は噛むほどに甘い。

十日以上寝ているという赤身は、サクサクした歯ごたえや爽やかな酸味はなく、熟れた肉の旨みがある。やや厚めに切りつけた中トロ、蛇腹の部分を削ぎ切りにした大トロは、きめ細かい脂がはじけるシャリの一つ一つにねっとり絡みつくようだ。脂ののりにしたがって、ネタを薄くすることで、バランスをとっているが、シャリとの一体感という点では、中トロが際立っている。

鮪三貫に続くのは貝四種。握りを仕上げる主の指がしなるように反ると、並の職人には手なづけられそうにない活きのいい貝も、ぴたりとシャリに寄り添う。赤貝、小柱、平貝、海松貝。縦の繊維と横の繊維が、噛み切る歯にそれぞれ違った弾力を返し、清冽な磯の香りに、四つの海が甦る。

握る直前に殻をむく車海老は栗のような香ばしい甘みがある。銀のストライプが粋な細魚は、白い半透明の身をくねらせ、桜色のおぼろを抱きこんでいる。はじける食感を活かす絶妙の塩加減である。

まな板の上でさっと薄皮を剥ぎ取られる鯖。銀の肌に虹色のスペクトルが浮かぶと、なめらかな柳刃の一閃に見惚れる間もなく、たったいま空気に触れたばかりの桃色の身が、褐色の煮切りをまとい、漆黒のつけ台に横たわっている。薬味は生姜、塩と酢がまわって旨みの出はじめるころあいか。

つるんとした歯ごたえのとこぶし、木村と書かれた舟からこんもり盛られた白雲丹を堪能し、あとは穴子と玉子ですという主の声にうなづくと、甘いツメを塗られた煮穴子が登場、気づくと、野趣あふれる後味だけが口に残っている。最後は、ベイクドチーズケーキのようにしっとり濃厚な玉子焼、鞍掛けに握られたのを頬張ると、ほくほくした山芋の香りが鼻に抜けた。

勘定は、おまかせの握りが15000円、日本酒が一本あたり1000円。内容を考えると高くはない。

公式HPはなし。食べログのページはこちら

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