『東京酒場漂流記』(なぎら健壱)
フォークシンガー、なぎら健壱による酒場エッセイ。東京生まれの著者は変わりゆく下町の風景をどこか恨めしげな目で眺めている。それだけに古い下町の風情を残す酒場に出会う喜びも大きい。出会いというより、再会というべきだろうか。というのは、下町酒場は著者が青春時代、痛飲しながらくすぶっていた思い出の風景だからだ。それはテーマパークを巡る物見遊山の旅ではなく、それぞれの人生がなまなましく交差する生活者の漂流である。そのセピア色の風景は、個人的記憶に基づきながら、70年代という時代の空気をよく伝えている。単行本の出版は83年、30代に達した著者がそれまでの酒場漂流を回想している。なかにはいまも名店として賑わう店があり、いつの間にか消えた場末の店がある。下町酒場の風景がホッピーや店構えだけではなく、そこに出入りする人々によって織りなされることがわかる一冊。
東京酒場漂流記 |
東京酒場漂流記 著者:なぎら 健壱 |
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