関連書籍(落語)

『落語と私』(桂米朝)

上方落語界の重鎮、桂米朝による落語案内。中高生のための入門書ということで、落語にまつわる素朴な疑問を解き明かすことからはじまる。それは、同時に、一流の芸人が落語という芸の本質を問い直す作業になり、やがて落語に関する歴史的・哲学的考察に深まってゆく。衰退しつつある落語界への危機感に促されたこの考察は、芸の先端を生きる者だけが持つことのできる批評性に貫かれている。『落語と私』という入門書らしからぬタイトルは、初心を忘れまいという決意を示すのか。落語と真摯に対峙しつづける者の孤独を表わすのか。いずれにせよ、東西の落語文化の違いに対する配慮も行き届いた最良の入門書である。

落語と私 落語と私

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Book 落語と私

著者:桂 米朝
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『志ん生一代』(結城昌治)

五代目古今亭志ん生の生涯を描いた長編小説。著者によれば、無名時代が長かった志ん生の前半生についての資料を揃えるのが困難なため、評伝という形をとらず、小説というスタイルを選んだという。志ん生ファンにはよく知られたエピソードが全編に散りばめられている。実際、伝記的興味をかきたてるネタには事欠かない生涯である。文学的価値や資料的価値は問わないことにしよう。ファンなら喜んで読みきってしまうにちがいない。

興味深いのは、無名時代の志ん生が、中央の名だたる寄席には出演できず、地方や場末のドサ回りを続けたということ。師匠をしくじって、講談師の一座に加わったこともある。当時、ドサ回りばかりしていると、芸が(田舎)クサくなる、と言われた。とはいえ、戦後のラジオ落語全盛時代に花開く志ん生の破天荒な話芸は、種々雑多な客層との、直接的交流から生まれたものではないか。やがて、五代目志ん生を襲名、頭角を現すが、戦争末期になると、空襲がなく、酒が飲めるという言葉に釣られ、三遊亭圓生とともに占領下の満州を慰問に回って終戦を迎える。この戦争体験が志ん生の芸を変えたという。元々、稽古には熱心な噺家だった。戦争を経て、芸が花開くと、時代も彼に追いついたのである。

志ん生一代〈上〉 志ん生一代〈上〉

著者:結城 昌治
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志ん生一代〈下〉 志ん生一代〈下〉

著者:結城 昌治
販売元:学陽書房
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