北辰鮨 仙台駅3階店

仙台駅構内、すし通りにある立喰すし店。仙台駅には他にも塩釜のすし哲、気仙沼のあさひ鮨など、宮城の有名店が出店しており、これらも含め、計四店に入ったことがある。どこもそれなりという印象だった。訪問の時期はそれぞれ別で記憶はやや曖昧だが、格別安かった覚えもない。いまとなっては根拠は謎だが、心のどこかに仙台といえばすしという先入観があったのだろう。なるほど、駅構内に牛たん通りと並んですし通りがあるのだから、すしは仙台名物と言えるのかもしれない。

今回こちらに寄ったのは地方都市の立喰すしというのが珍しかったからである。訪問時は10席程度のカウンターに二人の職人が立っていた。一カンずつの注文にも応じるということで、時間のない客がいろいろつまんでさっと引き上げるにはちょうどいい。立喰とはいえ、天然の平目や閖上の赤貝、名物のぶどう海老なども揃っている。ぶどう海老や赤貝を頼めば高くつくが、一カン150円や200円のネタにも食指の動くものがある。ただし、味はそれなりである。駅ビルの中という立地を考えれば、そんなものかもしれない。

他にはメガネをかけた賢そうな少年とその母親がいて、少年はサーモンを炙ってくれと小学生らしからぬ注文をしていた。威勢のいいすし屋相手にもひるまないその声には、すでに末恐ろしい貫禄さえ漂っていた。エンターテイメント性の高い回転寿司とは違い、気軽に暖簾をくぐり、職人と対面してお好みで注文できる立喰すしは、このように粋で頼もしい少年たちを育ててくれることだろう。

ただ結論としては、昼時で駅から少し歩くことを厭わないなら、鮨 仙一の旬のおまかせを食べるほうがいい。ランチタイムなら、仙台らしい上質なネタ一通りにお銚子一本つけても5000円でお釣りがくるだろう。満足度を考えれば、私の知るかぎり、ここのランチは駅構内のどの店よりも安い。

HPはこちら。駅一階には座って食べられる店もあり、地下食品売場では持ち帰りすしも買える。

(2009年4月訪問時のメモより)

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世界“カイテンズシ”戦争 寿司 vs Sushi

先日(1月5日)のNHKスペシャルで回転寿司が取り上げられた。「寿司 vs Sushi」というのは、世界進出を目指す日本企業とイギリス企業の覇権争いのことで、中東のドバイは元気寿司とYO!Sushiという二大チェーンが、意外にも、はじめて同じ地域に出店したケースなのだという。先に店を構え、繁盛しているYO!Sushiに対して、あくまで正攻法的に日本の握り寿司を根づかせようとする元気寿司は苦戦を強いられている。それまで生魚を食べる文化のなかった中東では、ヨーロッパ風のロール寿司など、フュージョン寿司に強みのあるYO!Sushiに、やはり一日の長があるのだろう。

回転寿司という仕掛けに着目したイギリス人の社長は、外国人(非日本人)シェフは日本人のように寿司に対する固定観念にしばられていない分、自由な発想で新しいメニューを生み出すことができるという。彼は寿司という料理の潜在的可能性だけではなく、回転する寿司の演出、つまり回転寿司のエンターテイメント性にも重きを置いているようだ。

したがって、「寿司 vs Sushi」という図式は、「すし」というものに対する両者のコンセプトの違いを表すものでもある。日本において、それまでの立ち寿司の伝統を打ち砕く、いわば革命勢力であった回転寿司チェーンが、ここでは日本の握り寿司の伝統にこだわることを宣言する。いまのところ、守りに入ったほうが劣勢のようだ。番組はドバイの「戦況」をそう伝えている。YO!Sushiの本拠地、ヨーロッパへの進出を視野に入れる元気寿司にとって、この事実はどう映るのか。

元々東南アジアを起源とする発酵食品であるすしが、伝播の過程で素材・調理法を変えながら、やがて今日の握り寿司を生んだことを考えれば、寿司が世界的に普及する過程であらためて変化したとしても何の不思議もない。逆に言えば、いくら外国人が奇抜な発想でこしらえたとしても、寿司が寿司でなくなるわけではない。もちろん、寿司が日本人だけのものであるはずもない。ピザやカレーの場合のように、本場のそれとは似て非なるものだからこそ、世界各国で受け入れられるのだ。

番組はその一方で、アジア諸国など、それまで生魚を食べる文化のなかった国々に新しい食文化を普及させた功績も指摘している。とはいえ、寿司の世界的普及によって問題になるのはむしろ、後半言及された水産資源の枯渇の危機だろう。この事実は、生魚という食材にこだわらない未来の寿司に、確固たる存在理由を与えるはずだ。

乱獲によって減った魚に代わる新たな食材探しも進んでいる。ここでも日本人と外国人の対応は違う。「代替魚」や「食品偽装」が問題になるのは、日本人が新しい寿司種より、慣れ親しんだ名前を好む傾向があるからだろう。他方、中国産のざりがにを試すYO!Sushiのシェフは、新たな食材をいかす新たな調理法の開発に余念がない。

この柔軟さというか、いいかげんさが、寿司という食文化に新風を吹きこむのか。あるいは、「スシブーム」を単なる一過性の流行に終わらせてしまうのか。結論を出すにはまだ早いようだ。

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廻転寿司処 タフ

あざみ野と藤沢に店舗を置く回転寿司店。土曜のランチタイムに訪問。人気店らしく、店内は混みあっていた。周囲の客の、皿を積み重ねていくペースも心なしか速いようだ。狭い店内を多くの寿司が回っている。

生のネタに力を入れているという点では、大江戸や三崎港に近いが、黒板に産地を明記しためずらしいネタの種類はより豊富で、思わず目移りしてしまう。皿の種類は105円から500円以上まであるが、それぞれの価格設定は他店よりやや低めか。残念なのは、やや固めに炊かれた酢飯が、冷めるとぼそぼそしてしまうこと。ちょうど、おひつが空きそうなタイミングだったからか、直接注文しても同じだった。ちなみに、ここもあらかじめロボットで成形したシャリ玉をその場で寿司に仕立てているようだ。訪問する日時によって変わるのかはわからないが、ネタの質や価格を考えると、シャリの出来があまりよくないのが惜しい。

他に、あぶりやカルパッチョなど、回転寿司らしいネタもあるが、カルパッチョ風にぎりはマヨネーズとにんにくチップの後味ばかりが口に残った。

公式HPはなし。住所、営業時間などについてはこちら(あざみ野店藤沢店)を参照。

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☆☆東京・元気寿司

八重洲地下街にある元気寿司の旗艦店。東京駅から見ると地下街の一番外れにあり、少し歩かされるが、地下道を通って、雨の日も濡れずにたどり着ける。木材の暖色を基調とした落ち着いた内装。日本クレセント製のコンベア台は御影石製だ。手前のカウンター席と奥のテーブル席があり、流れる寿司を見ながら食べたい一人客、二人客はカウンターへ、落ち着いて酒と料理を楽しみたいグループ客はテーブルへ、と分かれる。

皿の種類は126円から800円まで。新鮮な活物からカリフォルニアロールまで、ネタのバラエティは豊富。サラダ、焼物、揚物など、酒肴になる一品料理、各地の地酒・焼酎・ワイン・サワー・カクテルなど、ドリンクメニューも充実している。つまり、酒と肴が揃った回転寿司として使うか、寿司も食べられるダイニングバーとして使うかは客次第、というわけである。

背もたれのある椅子の座り心地もよく、思わず長居してしまいそうだ。客の回転率を上げるのではなく、客を楽しませ、客単価を上げることを目指す新業態のモデル店的位置づけなのだろう。「すしおんど」「元気寿司」「千両」「東京元気寿司」の4ブランドを展開する元気寿司チェーンによると、この店のコンセプトは以下のとおり。

「女性を中心にしたトレンドリーダー層をターゲットに新感覚の店づくりを追求した都市型店舗。寿司をメインとした創作日本料理と、それに合うおいしいお酒を用意しております。」

モード系回転寿司の出現は実はパリやロンドンのほうが早く、このタイプの店が日本に登場するのは2000年前後。しかし、2002年出版の『回転寿司の経済学』で、業界の新潮流として紹介された東京駅近辺の四つの回転寿司のうち、いまも生き残っているのは、ここ、東京元気寿司だけ。元気寿司系列のなかでも、このスタイルの店がその後増えていないところを見ると、モダンなスシバーとしての都市型回転寿司が普及するにはまだまだ時間がかかるのだろう。

山葵の質は高くないが、調味料や調理法など、回転寿司らしい楽しい工夫がいろいろあるせいか、あまり気にならない。

おすすめ:白えび(399円。にぎりで。甘くねっとりした食感。)

公式HPはこちら

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『最高の江戸前寿司を召し上がれ』(東京ガス(株)都市生活研究所)

「おまかせ」で食べて15000円以上の「高級店」への入門書として書かれたムック本。まずは初心者向けに、鮨屋でどうふるまえばいいかという心得が説かれ、「すし匠」の中澤圭二と「あら輝」の荒木水都弘の「若手」二人が「平成の江戸前」について語る対談が続く。ここまで特に目新しい情報はないが、本書の目玉は、マスコミ露出のほとんどない浜松町の名店「宮葉」の店主、宮葉幹夫のインタビューが収められていることだろう。職人としての履歴、築地での仕入れ、厨房での仕込みなど、目に見えない仕事、接客の方針、そして12貫の寿司が、豊富な写真とともに紹介されている。

後半は、旬の若手の店から老舗や名店まで、選び抜かれた20店のガイドに、一軒当たり見開き4ページを割く。それぞれ8貫の寿司の写真に、産地、調理法など詳細な解説が添えられ、店内見取り図、おまかせの値段と内容、ドリンクメニュー、喫煙の可否、近所のパーキングなど、一見客が求める情報も押さえられている。具体的な店名は以下のとおり。

  • 小笹寿し
  • 鮨 青木
  • 鮨からく
  • 鮨 松波
  • すし與兵衛
  • まね山
  • 寿司 むらまつ
  • 鮨 奈可久
  • 寿し 山海
  • 鮨 なかむら
  • すし 海味
  • 鮨 えん
  • すし匠
  • 秋月
  • 鮨 さわ田
  • 徳助
  • あら輝
  • 次郎よこはま店
  • 以ず美

すでに銀座に移転したさわ田や次郎よこはま店が以前の住所のままだったりするなど、2004年に出版された本書の、実用的ガイドとしての賞味期限は過ぎているが、豊富なカラー写真を目で見て楽しむ分には問題ない。

(品切れ)

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回転寿司 網元徳造丸

網元徳造丸は、伊豆の水産会社が経営する活魚料理チェーン。伊豆東海岸を中心に支店を展開、伊東駅前に同名の回転寿司店がある。漁師や漁船を連想させる店名が、地のうまい魚にありつけるという期待をかきたてる。網元を名のる大チェーンだけあって、仕入れにも自信があるのだろう。

大箱の立ち寿司店を回転寿司に転用したのか、店内は奥まで伸びる長いカウンターに沿ってコンベアを設置するという変則的な造り。つけ場は壁を背にしているので、端まで行った寿司はそのまま折り返してくる。つまり客の目の前には、行きと帰りの「複線」のレーンがあるが、奥を流れる皿には手が届きそうもない。

メニューは安いものは126円から、伊豆らしいネタを選ぼうとすると250円以上の皿が中心になる。皿の種類が多くて値段がわかりにくいが、ホワイトボードやお品書きに、手書きでその日のおすすめが書かれている。HPや店のメニューを見ると、あまり目新しいものはないように思えるが、地魚系のめずらしいネタは、仕入れの状況が日々違うのか、ほとんど手書きのほうにある。

せっかくなので、まずは地魚三種の盛り合わせ(525円)を頼んでみた。この日は、タチウオ、ホウボウ、イサキ。ネタが新鮮なことは歯ごたえでわかる。とはいえ、もちもちして、噛み応えのある地魚は、どうも寿司飯にはなじみにくいという「定説」を再確認しただけだった。いや、それどころか、新鮮な素材を使うと、その他の欠点が目立ちやすくなるということもわかった。

たとえば、山葵の質。これはおそらく、回転寿司最大の弱点の一つだろう。いい山葵を使うにはコストがかかる。そして、なにより揮発性の香りを維持するのが難しい。山葵の名産地、天城を背後に控える伊東の人たちは、山葵にうるさくないのだろうか。観光客としては、どうせなら地物の山葵を使って、伊豆らしさをアピールしてほしかった。

色の濃いつけ醤油にも、フレッシュな生醤油とは違う醤油くささを感じた。新鮮なイカや白身魚の味わいを引き立てるのはやはり、煮切りのような、色が薄く、さわやかなつけ醤油だろう。同じように、甘みと塩分の強い、ぼそぼそした酢飯も、主張が強すぎる。良く言えば茶がすすむ寿司、悪く言えばやたらと喉が渇く寿司である。

地元客が足繁く通う店というより、温泉帰りの観光客が電車の待ち時間に立ち寄る店か。結論としては、地物の魚介類を揃えるコストを考えても、値段相応の満足はえられないという印象だった。

おすすめ:地鯵(252円。肉厚で、脂がのっている。)

公式HPはこちら

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特上鯵の押寿し(大船軒)

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東海道本線大船駅の名物駅弁、「鯵の押寿し」のプレミアム版。通常の「鯵の押寿し」が中くらいの鯵を削ぎ切りにしたものを使うのに対して、こちらは小鯵の片身を開いて、一つのすしに仕立てている。切り身はよく〆られ、ややパサついた食感、小骨まで柔らかい。赤酢を使っているのか、酢飯は茶色味を帯びている。保存食品としてのすしらしく、砂糖と酢のよく効いた、甘酸っぱい味だ。残念なのは酢飯の上に切り身がのっているだけで、押しずし特有の一体感と熟成感がないこと。一口で食べるには大きすぎるが、噛み切ろうとするとバラバラに崩れてしまう。食後、やたらと喉が渇くすしである。(1200円)

ちなみに、大船軒といえば、古風な四角い紙箱に入ったサンドイッチが有名。ハムとチーズのサンドイッチが3片ずつ、食パンの枚数にしたら計4枚分か。ただし、専用の薄いパンである。日本初の駅弁サンドイッチとして一大ブームを巻き起こし、日本全国に類似品が現れた。模倣者の出現によって、危機感をもった創業者が生み出したのが、あの鯵の押寿しだという。ハムの製造元である鎌倉ハムは、当時珍しかったロースハムを供給する「大船軒のハム製造部門」として生まれた。やや塩味が足りないチーズとオーソドックスなロースハムは文明開化の味がする。

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写真は公式HPより。値段や包装は同じとはいえ、内容はロースハムとチーズが2片ずつに、やや厚めのハムが2片。なぜか私が買ったものと違う。(380円)

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『回転寿司の掟』(松岡大悟)

回転寿司店で通はいかにふるまうか、そしていかに美味しく食べるかを説いた本。まずはどんな店を選べばいいのか。そして、どの日に、何時ごろ行き、どんな席につけばいいのか。回っているものと同じネタを、つけ場にいる店員に注文するのは失礼だとか、最低限のマナーも書かれている。私も読んでなるほどと思い、以後店に入るとまずは一周見送ってから、直接頼むか、回っている皿を取るか、選ぶことにしている。すべての「掟」がいつも正しいとはかぎらないが、ハズレの多い回転寿司ライフを、少しでも実り多いものにするためのヒントがいくつか隠れているはずだ。内容については、前年に出版された、柳生九兵衛の『達人直伝 回転寿司のさ・すし・せ・そ』 の焼き直しという印象が強い。よほど回転寿司に興味があるという人でなければ、どちらか一冊読めば十分だろう。

回転寿司の掟 回転寿司の掟

著者:松岡 大悟
販売元:河出書房新社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

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つきじ千鮨 大船店

持ち帰り寿司の大手、ちよだ鮨が手がける立喰寿司店。同様の店舗は築地、門前仲町にもあるが、大船店は「エキナカ」、つまり駅構内にあるというのがめずらしい。朝7:30から(日曜は8:00から)開いている。海外に旅立つ朝、最後の寿司をあわただしく食べる人たちのためだろうか。前夜の夢にうまそうな寿司が出てきて、朝から矢も盾もたまらず寿司を食べたいという人たちのためだろうか。いずれにせよ、朝から寿司を食べるという発想はなかった。JR東日本の子会社が展開する回転寿司、うず潮も開店時間が早いが、こちらは「回転朝食」を売りにしている。つきじ千鮨が朝も同じメニューを出しているかどうかは未確認。改札を出ずにすむので、通勤途中の乗換えか、途中下車の折に、軽く寿司でもつまむか、というニーズはありそうだ。

店内は間口は狭いが奥行きは深く、詰め込めば、15人くらいは立てるだろう。つけ場には3人の職人が立ち、忙しそうに注文に応じている。あたりを見回すと、10カン690円のお得なおまかせコースを注文する人が多い。他に、やや高価なネタを組み合わせた7カン690円のコースが二種類。

お好みは2カン単位で。ほとんどが1カン80円で、一部120円と200円のネタもある。公式HPによれば、メニューは以下のとおり。

1カン80円(まぐろ、づけまぐろ、あじ、寿司えび、えんがわ、炙り車えびなど)
1カン120円(本まぐろ、ふっくら煮あなご、生さば、あか貝など)
1カン200円 (本まぐろとろ、うに、など)

ちよだ鮨は持ち帰り寿司の他に、いくつかの回転寿司店も展開しているが、ネタの質や品揃えは、並の回転寿司レベルという印象。隣に持ち帰り寿司のコーナーもあるが、おなじみの三角形の鯖寿司はここでも食べることができる。ビールや日本酒も置いているので、会社帰りに、キオスクで乾き物を買ってグリーン車で飲むよりは少しましかもしれない。

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うず潮の「回転朝食」(番外編)

JR東日本系列の回転寿司チェーン、うず潮。店舗は駅構内、駅前など、人の流れの絶えない、飲食業としてはかなり有利な立地にある。それだけに、味覚面での改善努力が足りないのでは、という先入観もあるが、興味深いのは、早朝という、普通の回転寿司なら非稼動の時間を活かして、旅行者、通勤客に「回転朝食」を供していることだ。これがあるのは、東京、上野、浜松町、千葉、津田沼、品川の各店舗で、営業時間は朝7時から9時半まで、ただし、東京以外は平日限定である。今回は土曜ということで、東京駅構内ダイニングコートにある、東京本店に出かけた。

入口で500円払って案内された席には、すでに、ご飯、ワカメのみそ汁、味付のりが用意されている。これにレーンを回るおかずから3品を選べるというシステムである。さあ、食べようという段になってわかったのは、おかずが回転しているという事実より、まずは三品までという縛りが重くのしかかるということだ。実はこのシステム、東京、上野の二店だけで、他店は「ご飯・みそ汁・のり」の基本セット(280円または320円)に、取ったおかずの分を支払うことになっている。東京本店ではこの制限があるため、バランスよい朝食をとるには、あらかじめ頭の中で大雑把なメニューを組み立てておく必要がある。

では、レーンを回るおかずを見てみよう。

焼魚(鮭・鯖)、目玉焼、生卵、納豆、ほうれん草のおひたし、おでん、あら煮、しらすおろし、冷奴、・・・・・・

問題は、普通なら値段に差がつきそうなおかずが横一列に並んでいることである。他店のように、皿ごとに値段が違えば、あまり迷うことなく、欲しいおかずに手を伸ばすことができるが、みすみす安そうなものばかり選ぶのは癪に障る。しかし、そう思って、重量感ある主役級のおかずばかり選べば、今度は栄養的に偏った朝食になってしまう。

ここは、主役一つに脇役二つ、というのが妥当な線だろう。

回転寿司なら魚だろうということで、私はまず、主役として鮭の塩焼きを選んだ。いや、正直にいえば、和食朝食に焼魚は付きものだろうという先入観があって、思わず手に取ってしまったのだ。選択肢は鮭と鯖の二つしかなかった。

さて、ここで我々はある重大な選択をせまられる。すなわち、目の前におかずをそろえてから食べ始めるか、あるいは、流れるおかずを横目にあれこれ迷いながら食べるか、という二者択一である。私は後者を選ぶことにした。最初に三品取ったところで、魅惑的な四品目が目の前を通り過ぎることだって、ありうるではないか。できれば、悔いの残る朝食にはしたくない。回転系レストランでは、目移りすること自体が、一つのエンターテイメントになるのだ。そのために、三角食べという、日本が世界に誇る食事美学を犠牲にせざるをえないとしても、背に腹は代えられない。

というわけで、鮭をおかずにごはんを食べながら、次なるおかずを狙うことにした。

主役の次に来るべきは脇役、それも野菜系だろう。ということで、回転レーンに睨みをきかせるうち、主役の鮭を食べ終えたが、これも考えてみれば、選択肢は二つだけだった。ほうれん草のおひたしとしらすおろしである。私はなんとなくしらすおろしを手に取り、これも三品目を狙ううちに、あっけなく食べ終えた。しかし、ここで一つ、問題が生じた。というのも、しらすおろしというのは、おかずというより、軽いお口直しのようなもので、ごはんがまったく進まないのである。

当初の計画では、三品目は脇役、それもどちらかといえば主役に準ずるクラスのものを選ぶはずだった。これにはいくつか選択肢があった。納豆や目玉焼のような、たんぱく質系のおかず、そしてマカロニサラダや春雨サラダのような、いぶし銀系名脇役である。納豆は嫌いではないが、朝から食べる気はしない。目玉焼は、個人的には、ごはんのおかずではない。よく考えれば、それはマカロニサラダや春雨サラダも同じ、しかもよく見るとマカロニではなくスパゲッティーで、箸で食べるのは間抜けすぎる。春雨らしきものも、どんな味つけか見当がつかなかった。

このとき、ほかほか湯気を立てながら目の前に現れたのが、あら煮である。もちろん、それまでにも、あら煮らしきものは回っていた。しかし、このあら煮はほかほかであるだけでなく、煮汁がよく染みた大根がついているのだ。いい回転寿司の条件といえば、あらである。刺身の副産物であるところのあらを、時間外の回転寿司店で食べる。これぞ、「回転朝食」の醍醐味だろう。考えてみれば、これで、向付、お椀、煮物、焼物、ごはんという、日本料理の基本要素がそろった。多めに残ったごはんを消化するにも、ちょうどいい。

そう考えながら、二つのあら煮を見送り、これを選ぶことに決めた。ただ、三つ目のあら煮はなかなか回ってこなかった。やはり、人気があるのか、途中で誰かに取られてしまうのかもしれない。しばらく待って、ようやく手にしたとき、思わずにやりとしてしまった。あら煮は金目鯛らしき赤い魚の頭を甘辛く煮付けたものだ。

結論から言えば、これは思ったよりずっと味が濃く、片づけるのに骨が折れた。しかも、魚と大根という組み合わせは、よく考れば、しらすおろしとまったく同じである。避けられたはずの単調な繰り返しを選んだという意味で、このメニュー構成は思慮を欠いたものと言わざるをえない。バランスをとるには、二品目をほうれん草のおひたしにするべきだったのだろう。

完璧な「回転朝食」をとるには、もう少し修練が必要なようだ。心に余裕があれば、周囲の客がどんなメニューを組み立てるのか、観察することもできる。ふだんあまり見る機会のない、他人の朝ごはんというものが、意外と人それぞれ違うということもわかる。今度はぜひ、品数の制限がない他店で、思う存分、豪華な朝食コースを組み立ててみたい。

公式HPはこちら

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