JR東日本系列の回転寿司チェーン、うず潮。店舗は駅構内、駅前など、人の流れの絶えない、飲食業としてはかなり有利な立地にある。それだけに、味覚面での改善努力が足りないのでは、という先入観もあるが、興味深いのは、早朝という、普通の回転寿司なら非稼動の時間を活かして、旅行者、通勤客に「回転朝食」を供していることだ。これがあるのは、東京、上野、浜松町、千葉、津田沼、品川の各店舗で、営業時間は朝7時から9時半まで、ただし、東京以外は平日限定である。今回は土曜ということで、東京駅構内ダイニングコートにある、東京本店に出かけた。
入口で500円払って案内された席には、すでに、ご飯、ワカメのみそ汁、味付のりが用意されている。これにレーンを回るおかずから3品を選べるというシステムである。さあ、食べようという段になってわかったのは、おかずが回転しているという事実より、まずは三品までという縛りが重くのしかかるということだ。実はこのシステム、東京、上野の二店だけで、他店は「ご飯・みそ汁・のり」の基本セット(280円または320円)に、取ったおかずの分を支払うことになっている。東京本店ではこの制限があるため、バランスよい朝食をとるには、あらかじめ頭の中で大雑把なメニューを組み立てておく必要がある。
では、レーンを回るおかずを見てみよう。
焼魚(鮭・鯖)、目玉焼、生卵、納豆、ほうれん草のおひたし、おでん、あら煮、しらすおろし、冷奴、・・・・・・
問題は、普通なら値段に差がつきそうなおかずが横一列に並んでいることである。他店のように、皿ごとに値段が違えば、あまり迷うことなく、欲しいおかずに手を伸ばすことができるが、みすみす安そうなものばかり選ぶのは癪に障る。しかし、そう思って、重量感ある主役級のおかずばかり選べば、今度は栄養的に偏った朝食になってしまう。
ここは、主役一つに脇役二つ、というのが妥当な線だろう。
回転寿司なら魚だろうということで、私はまず、主役として鮭の塩焼きを選んだ。いや、正直にいえば、和食朝食に焼魚は付きものだろうという先入観があって、思わず手に取ってしまったのだ。選択肢は鮭と鯖の二つしかなかった。
さて、ここで我々はある重大な選択をせまられる。すなわち、目の前におかずをそろえてから食べ始めるか、あるいは、流れるおかずを横目にあれこれ迷いながら食べるか、という二者択一である。私は後者を選ぶことにした。最初に三品取ったところで、魅惑的な四品目が目の前を通り過ぎることだって、ありうるではないか。できれば、悔いの残る朝食にはしたくない。回転系レストランでは、目移りすること自体が、一つのエンターテイメントになるのだ。そのために、三角食べという、日本が世界に誇る食事美学を犠牲にせざるをえないとしても、背に腹は代えられない。
というわけで、鮭をおかずにごはんを食べながら、次なるおかずを狙うことにした。
主役の次に来るべきは脇役、それも野菜系だろう。ということで、回転レーンに睨みをきかせるうち、主役の鮭を食べ終えたが、これも考えてみれば、選択肢は二つだけだった。ほうれん草のおひたしとしらすおろしである。私はなんとなくしらすおろしを手に取り、これも三品目を狙ううちに、あっけなく食べ終えた。しかし、ここで一つ、問題が生じた。というのも、しらすおろしというのは、おかずというより、軽いお口直しのようなもので、ごはんがまったく進まないのである。
当初の計画では、三品目は脇役、それもどちらかといえば主役に準ずるクラスのものを選ぶはずだった。これにはいくつか選択肢があった。納豆や目玉焼のような、たんぱく質系のおかず、そしてマカロニサラダや春雨サラダのような、いぶし銀系名脇役である。納豆は嫌いではないが、朝から食べる気はしない。目玉焼は、個人的には、ごはんのおかずではない。よく考えれば、それはマカロニサラダや春雨サラダも同じ、しかもよく見るとマカロニではなくスパゲッティーで、箸で食べるのは間抜けすぎる。春雨らしきものも、どんな味つけか見当がつかなかった。
このとき、ほかほか湯気を立てながら目の前に現れたのが、あら煮である。もちろん、それまでにも、あら煮らしきものは回っていた。しかし、このあら煮はほかほかであるだけでなく、煮汁がよく染みた大根がついているのだ。いい回転寿司の条件といえば、あらである。刺身の副産物であるところのあらを、時間外の回転寿司店で食べる。これぞ、「回転朝食」の醍醐味だろう。考えてみれば、これで、向付、お椀、煮物、焼物、ごはんという、日本料理の基本要素がそろった。多めに残ったごはんを消化するにも、ちょうどいい。
そう考えながら、二つのあら煮を見送り、これを選ぶことに決めた。ただ、三つ目のあら煮はなかなか回ってこなかった。やはり、人気があるのか、途中で誰かに取られてしまうのかもしれない。しばらく待って、ようやく手にしたとき、思わずにやりとしてしまった。あら煮は金目鯛らしき赤い魚の頭を甘辛く煮付けたものだ。
結論から言えば、これは思ったよりずっと味が濃く、片づけるのに骨が折れた。しかも、魚と大根という組み合わせは、よく考れば、しらすおろしとまったく同じである。避けられたはずの単調な繰り返しを選んだという意味で、このメニュー構成は思慮を欠いたものと言わざるをえない。バランスをとるには、二品目をほうれん草のおひたしにするべきだったのだろう。
完璧な「回転朝食」をとるには、もう少し修練が必要なようだ。心に余裕があれば、周囲の客がどんなメニューを組み立てるのか、観察することもできる。ふだんあまり見る機会のない、他人の朝ごはんというものが、意外と人それぞれ違うということもわかる。今度はぜひ、品数の制限がない他店で、思う存分、豪華な朝食コースを組み立ててみたい。
公式HPはこちら。
最近のコメント